『バグダッド・カフェ』映画:超オススメ!何度も観たくなる異色の作品①

映画好きとしては毎日映画を観ている時間がないと落ち着かないわけですが、家事や食事をしているときでも映画をBGM代わりに流していることも多いです。外国語のセリフが耳に心地良かったりもします。

当然、ひとつの作品を何度も観ることが多くあります。まずオリジナル音声と字幕で観て、次に日本語吹き替えで観る、気に入った作品は、それを繰り返し観てみたり。わたしの場合、映画はオリジナル音声が絶対ですが、日常のシーンや気分で音声をかえて観ているわけです。

その中で、何度も繰り返し観たくなる心に残る映画の中から自信をもってオススメできる個性ある作品を紹介したいと思います。その魅力もちょっぴり語ってみたいと思います。

目次

異彩を放つ幻想の世界:『バグダッド・カフェ』

バグダッド・カフェ

Bagdad-Caffe Calling you

CG Entertainment

「バグダッド・カフェ」を観て…

1987年制作のドイツ映画「バグダッド・カフェ」は、米国カリフォルニア州モハーベ砂漠の小さなカフェとモーテルを舞台にしたドイツ映画です。

なぜかタイトルに親しみを感じた「バグダット・カフェ」記憶の中にあったのか…観てみると、想像とは全く違った異世界でした。

冒頭のシーンは、荒涼とした映像で、退屈そう…と思った瞬間、流れてきた曲にドキリとしました。

「コーリング・ユー」誰もが耳にした名曲。

哀しげな叫びのような切ない歌声、強烈に耳に残ります。

(え?ここで?この唄?)と、最初は妙な違和感があったものの、今では、この作品のテーマ曲であることのセンスの良さと感性に感慨深いものがあります。

無声映画かと思うほどセリフが少なく、ポストカードにあるような風景やシーン。

登場人物の女主人が激しく怒鳴り散らしている割に、まったりとした気持ちにさせる独特な世界観が印象深く、様々な場面が記憶に残ります。

アメリカ映画の一般的な特徴とは異なり、独特で控えめな雰囲気や色彩が幻想的で本当にセンスがいい。

本作品には、独自の笑いを生むコメディチックなタッチがあり、目には単純とも思えるストーリーですが、人々の幸福や愛情を感じさせます。

なかなか深い内容で心に響きます。異なる文化をもつ異国の土地に飛び込んだ、一見すると滑稽なドイツの中年女性は、荒れた砂漠に舞い降りた天使でした。

バグダッド・カフェ画像

Bagdad Caffe(1987)

imdb.com

私を魅了した『バグダッド・カフェ』

ドイツからラスベガスへ旅行中の中年夫婦。多分、よくある夫婦喧嘩?のシーンから始まります。

荒れた砂漠を貫く幹線道路。旅の途中にも拘らず夫婦喧嘩の末、車を降り、重たいトランクを引きずるジャスミン。ぽっちゃりと太った中年女性。綺麗な帽子と洋服を着たお洒落さんという風な人形のようにも見えます。

喜怒哀楽のない表情でいて無口。感情が顕になる目。ふくよかな体型と白い肌、可愛らしい顔立ちのジャスミン。

第一印象は、ちょっと滑稽に見える〝風変わりなオバサン?〟とも感じたけれど、愛情深く優しい女性、可愛くて純粋な人間性を滲ませるキャラクターです。
わたしは、ジャスミンのような女性が居たら絶対に好きになると思いました。

バグダッド・カフェ画像:ブレンダ

Bagdad Caffe(1987)

Imdb.com

ジャスミンが歩き続けた先には、砂漠の中にポツンと、さびれたダイナー兼ガソリンスタンド兼モーテル「バグダッド・カフェ」があります。

看板はボロボロで、なんだか廃墟のよう。それでもなんだかカッコいい。

その店ではちょうど、黒人の痩せぎすな女主人ブレンダが、仕事をしない夫を怒鳴り散らし、追い出したところ。怒鳴り散らしていた割に、哀しそうに涙を流すブレンダ。どうにもならない感情と苛立ち、去っていく夫...何もかもに不満を感じ傷ついている不器用な女。

何をそんなにイライラしているのか?登場したとき、とにかく大声で怒鳴り散らしているブレンダに「わ、こわ。」…少し圧倒されました。

本当は、悪い人間ではない、暖かい心をもった女性なのに、ひとりでキリキリ舞いしている女主人。きっと素直にも可愛くもなれないでいるのだと思いました。

バグダッド・カフェ画像:ブレンダ

Bagdad Caffe(1987)

imdb.com

モーテルのホコリの被った部屋を借りたジャスミンは、部屋の壁に飾られた、2つの太陽が輝く空を描いた不思議な風景画に目を奪われます。

われに返り、着替えようとトランクを開けると、そこに入っていたのは、なんと夫の着替えや生活用品。持ってきたのは自分のトランクだったが、荷物を詰め間違えていたのです。

トランクに入っていた手品セットの箱。後に、その手品セットで練習したジャスミンは、手品を披露し周囲を癒していくわけですが…。

一方、男ものの服やひげ剃りなどが部屋に広げられているのを見て女主人のブレンダは不審を抱きます。

確かにおかしな状況です。太っちょのドイツ人の女が独り男物の荷物を持ってモーテルに泊まっているのだから。ブレンダの目には、異質でしかなかったのです。

ブレンダが保安官を呼びつけ、ジャスミンの航空券やパスポートをチェックするも、当然のことながら怪しいところはひとつありません。

なんの言い訳も説明もせずに保安官に応じるジャスミン。この無駄のない沈黙さがジャスミンの魅力なのかもしれません。

目的も予定もなく、暇をもてあましたジャスミンは、勝手に店の大掃除をしたり、ブレンダの息子の赤ん坊をあやしたり、早々にバグダッド・カフェの定員のよう…なんの躊躇もなく、さびれたこの空間で当たり前のように動き回ります。

ブレンダ以外の人々は、そんなジャスミンを干渉することなく受け入れるゆるさが面白い。

「元通りにしろ!」と怒鳴り散らしていたブレンダも、少しずつジャスミンへの警戒心が薄れていきました。最初は大声で迎えた彼女に対し、徐々にブレンダの表情が緩んで笑顔に変わり、やがて心の壁が崩れていく様子が感じられます。

ブレンダの癇癪に抗うことなく淡々と好き勝手に行動するジャスミンの人間性に、わたしは惹かれます。ジャスミンのような人は平和に物事を思うように進めていくものだと更に羨ましく思えます。

また、夫の荷物の中に入っていた、あの手品練習セットで手品の腕前が上達したジャスミン。カフェの客に次々と披露します。その単純な驚きと楽しさに、カフェの人々は、癒され、笑い声が絶えません。

そのうち評判が評判を呼んで、かつて閑古鳥が鳴いていたバグダッド・カフェは、マジックショーを上演するダイナーとして輝き、多くの客でいっぱいになります。

ブレンダの息子が弾くピアノや、娘とジャスミンと共に踊り歌うブレンダはまるで別人のように輝いていました。こっそりと様子を伺う夫もブレンダの笑顔に心を打たれ、彼女の変化をじっと見つめていました。これまでの不器用ながらも真摯な姿勢が、周りの人々との絆を深め、バグダッド・カフェに新しい風を吹き込んでいくのです。

バグダッド・カフェ画像:ジャスミンとブレンダ

Bagdad Caffe(1987)

imdb.com

同時進行で描かれているエピソードは、いくつかありますが、バグダット・カフェの敷地のトレーラーに住んでいる初老の男、まるでバグダッド・カフェの主のよう。いかにもアメリカ人といった風体の一見ちょい悪オヤジのようなルディ。

見た目と違って、ルディは優しくいつも笑みを浮かべ、どんな人もおおらかに受け入れる不思議な雰囲気の紳士です。彼の言動には、ちょっと笑えるところがあるものの、この作品の重要人物です。

ジャスミンとルディとの絡みが特に面白く印象的です。

ルディは画家(たぶん好きで絵を描いている感じ)で、ジャスミンの部屋に掛かっていた輝くふたつの太陽の抽象画はルディの作品だったのです。ジャスミンは、あのふたつの太陽を描いたルディという人物に好意的な興味をもったのだと思います。

わたしには不思議な絵です。青空に輝く二つの太陽にどんな意味があるのだろう。ルディの謎な感性としか思えません。

ルディに頼まれて彼の絵のモデルになるジャスミン。トレーラーの綺麗なセットでポーズをとるジャスミン。なぜか手には果物を持ち、座っているだけ。そのパターンがいくつも…。思わず、クスッと笑ってしまうシーンで、やっぱり謎です。

種類の違ういくつかの果物とジャスミンの絵が進むうちに、少しずつジャスミンの白い肌が露出されていく様子は、厭らしくなくコメディチックな要素を含みながらの優しいひととき。ルディの優しい画家としての瞳が癒されます。そして、ちょっとした刺激を楽しむジャスミンは、不思議なオバサンモデル。ルディとジャスミンの関係の良さや愛が控えめに描かれている気がします。

バグダッド・カフェ画像:ジャスミン

Bagdad Caffe(1987)

Imdb.com
バグダッド・カフェ画像:ルディ

Bagdad Caffe(1987)

Imdb.com

この作品の不思議な描写が本当に面白く魅力的です。

バグダット・カフェの全てが奇跡のような日々のある夜、保安官が店に現れ、ジャスミンにビザの期限切れと労働許可証の不所持を告げられます。ジャスミンはドイツへ帰国しなければならなくなります。

ジャスミンが去ったバグダッド・カフェ。人々が集うことはなくなり、ブレンダをはじめ皆、喪失感と虚しさでいっぱい。

無声映画のような映像から人々の虚しさが伝わります。

ブレンダは、ポストを確認したり、砂漠を見つめて、ジャスミンの姿を探します。

この人々の寂しさや閑散とした砂漠とバグダット・カフェの風景がマッチしていて印象的です。

しばらく経ったある日、バグダッド・カフェに再びジャスミンが現れます。殺風景な砂漠の景色の中にホワイトの可愛らしい洋服姿のジャスミン。

少しの間、見つめ合うブレンダとジャスミン、無言で抱き合う二人。全く違った者同士の強い絆を感じます。そしてカフェの人々とジャスミンは、再会を喜び合います。

バグダッド・カフェ画像:ジャスミンとブレンダ

Bagdad Caffe(1987)

imdb.com

再びこれまでのようにマジックショーを上演する日々を送る中、ジャスミンの部屋をルディがひと握りの花を持ってたずねます。

ルディは「再会できて嬉しいが、このままではふたたびビザの問題が起こる。アメリカ市民と結婚すれば問題は回避できる」と告げます。それは控えめな結婚の申し出でした。大袈裟な感情の昂りもなく微笑んだジャスミンは一言「ブレンダと相談するわ」と答えるのでした。

この一言に、ジャスミンのバグダッド・カフェの女主人ブレンダを何よりも大切に思う愛情を感じました。

バグダッド・カフェ画像:ジャスミンとルディ

Bagudad Caffe(1987)

Imdb.com

最後に…

この作品を観た後に、作品の魅力やセンスの良さの他に感じたことがあります。人は、笑顔でハッピーでいれば、周囲の人に小さな喜びを与えることができるに違いない。そして更に愛や幸せが自然と折り重なるのだと。。

素敵な作品からまたひとつ学びがありました。時代を感じつつも、何度観てもまったりとした気分で癒される「バグダット・カフェ」絶対オススメできる作品です。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
Momoka 

『バグダット・カフェ』概要

  • 1989年 第14回セザール賞最優秀外国映画賞
  • 1989年 「コーリング・ユー」 第61回アカデミー賞歌曲賞ノミネート
  • 『バグダッド・カフェ』(原題:Out of Rosenheim、英題:Bagdad Café) 制作は西ドイツ監督: ペルシャ・タバリ公開年: 1987年
  • 主演: マリアンヌ・ゼーゲブレヒト
  • 共演: シアーシャ・リッグ、セリム・バルトラック

ジェヴェッタ・スティールが歌う本作品のテーマ曲「コーリング・ユー」は、映画公開後も多数の歌手によりカバーされるヒット曲となりました。

撮影はカリフォルニア州ニューベリースプリングスで行われ、「バグダッド」は、中東の都市のことではなく、当地の地名(Bagdad, California)です。

撮影に使われたカフェ部分の建物は、実際にダイナーとして営業していた店舗を用い、撮影終了後、店は映画と同じ店名の「バグダッド・カフェ」に改められ、多くの観光客が訪れる名所となっています。(参考:Wikipedia)

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