『ギルティ』映画 オリジナル版:超オススメ!何度も観たくなる異色の作品②

お気に入りの映画を繰り返し観る、思い出したらまた観るということは日常茶飯事で、観るたびに新しい発見や「あぁ、そういうことだったのか」など更に納得することも多いです。その中でも特に、何度観ても引き込まれる映画があります。

また、オリジナル音声の字幕を吹き替えで観るとセリフの意味合いが違ったり、外国語の表現の面白さもわかり、その外国語を覚えることも。

そこで今回は、特に個人的に何度も観てしまう作品『ギルティ』をご紹介します。デンマーク制作のオリジナル版とアメリカ制作リメイク版とありますが、絶対オススメしたいデンマーク制作オリジナル版の魅力をお話ししたいと思います。《ラストネタバレは記事に含んでいません》

目次

電話1本で紡がれるストーリーと真実『ギルティ』

『THE GUILTY/ギルティ』予告編

手がかりは電話の音声と想像力だけ!『ギルティ』を観て…

彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。

ほとんどの場面がオペレータールームでヘッドセットをつけた主人公の姿です。BGMなし、そして電話の向こう側から聞こえてくる音声、微かに聞こえる音を手がかりに、“見えない”事件を解決するという今まで観たことのない密室劇でした。

『ギルティ』はスリラーのようなサスペンスのような独自の魅力を持つ作品で、予測不可能な展開に引き込まれていきます。

一般的には、デンマーク制作のオリジナル版が映画愛好者や批評家から高い評価を受け、国際的にも注目を集めました。アメリカ制作のリメイク版も一定の成功を収め、アメリカの観客にも受け入れられました。

主観的な好みにもよりますが、わたしは絶対オリジナル版をオススメします。この作品の異色さを非常に感じると思います。

オリジナル版の魅力的なデンマーク語と主人公の俳優が役どころにぴったりで、電話1本が引き起こす複雑な心理劇が全てにおいて完璧とも思えるバランスの良さを感じました。落ち着いていて静かな緊張と興奮とでもいうか…。

主人公のクールな感情表現と顔立ちや声のトーン、話し方まで魅力的で個人的に大好きな俳優(ヤコブ・セーダーグレン)です。彼が演じるアスガーのクールさや落ち着いた物腰が物語に独特のエッセンスを加えています。

状況に応じて変化する感情や、どこか影に隠れた情熱を感じさせるのです。特に、彼のインカムを通した独白は、物語に深みとリアリティを与えています。冷静な言葉で瞬時に状況を判断し、観察眼の鋭さを示すそのスタイルは、まさに彼のキャラクターにぴったりとマッチしていて魅力的です。

主人公のクールな表現や俳優の素晴らしい演技に加え、デンマーク語の魅力も作品に一層の深みを与えています。デンマーク語は独自のリズムや音韻を持ち、その響きが物語に特別な雰囲気を添えています。

デンマークが物語の舞台であることで、観る者にとって異国の魅力に触れ、作品に没入感を深める一因となっています。

映画全体の雰囲気も、主人公のクールで洗練された演技によって一層引き締まります。登場人物たちの複雑な感情や犯罪に、向き合う心理的な描写が深い感銘を与えるのです。

また、映像美も見逃せません。独特の照明やカメラワークが、物語の雰囲気を一段と引き立て、視覚的な魅力を醸し出しています。

オリジナル版「ギルティ」は、俳優のクールで魅力的な演技、インカムを通じた独白の緻密さ、そして映像美が見どころの一つとなっており、これらの要素が見事に融合していてる作品です。

緊急通報指令室のオペレーターのアスガーは、今まさに誘拐されているという女性からの通報を受け、微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い…電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに独断で解決しようと奔走するのです。その中でアスガー自身が抱える苦悩も徐々に変化していくのです。

映画『ギルティ』の主人公アスガー

『THE GUILTY/ギルティ』

(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

電話の向こう側の真実・私を夢中にさせた映画『ギルティ』

ストーリーの始まりをやや詳細に感想を混じえてお話しします。作品の色彩や雰囲気といった魅力をよりお伝えできればと思っています。

緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルムは、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、様々な緊急通報を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていました。

物語は、アスガーの勤務するオペレータールームで緊急通報を受け取る彼のヘッドセットを装着した横顔から始まります。

冒頭の電話の呼出音...耳にピッタリと付いている受信機、ゆっくりとアスガーの横顔が画面いっぱいに映し出される映像で一気に緊張感が走ります。個人的に、端正な彼の横顔に惹かれました。

アスガーの顔のクローズアップが多く、目の動き、彼の表情から滲む感情が物語を感慨深くしています。

ドラッグで苦しんでいる男からの救いを求める通報に淡々と質問を重ねるアスガーの姿がとてもカッコイイなと、始まりから早々に感じてしまいました。

デスクの上には、パソコンのモニター、キーボード、メモ用紙、司令室への連絡用の電話機、そしてアスガー自身の携帯電話が置いてあり整然としています。

モニターには、電話の主の氏名などの個人情報や場所(正確には電話の基地局)が映し出されます。

アスガーはモニターを眺めながら通報者へ質問を重ね対処すべく情報を得ます。この短い流れだけでアスガーの性格や気性が浮き出されていて、とても興味を引かれました。

風俗街で車に女を載せたところを強盗されてしまった通報者、ニヤけるアスガーは、パトカーの要請のために通信司令室へ連絡します。司令室への電話の相手は警察官としての彼のボスでした。

ボスとの会話でアスガーの抱える状況や、“明日”に何があるのか…も次第に見えてきます。

電話の相手との会話と、アスガーの言葉や表情がじっくりと映し出され、観ている側へ今起こっていることや彼の心情が伝わってきます。

アスガーの気性やプライベートそして苦悩まで。そして想像を掻き立てられ魅了されてしまいます。

ゆっくりと静かに流れる映像の間、わたしの頭で様々な背景が浮かび想像が膨らむのです。想像は十人十色。映像で表現されるより想像の方が作品を深く面白くしている気がします。そしてアスガーの表情の微妙な変化に俳優の演技力、表現力の素晴らしさを感じました。

あと数十分で勤務を終えようかとする時に、一本の通報を受けます。酔っ払った女か…途切れ途切れの言葉、弱々しく怯えたような震える声。アスガーの質問に噛み合わない返答。

どうも明らかに様子がおかしい。子供に話しているような口調。アスガーの目が厳しくなり、警察官としての直感が何かを察知します。

咄嗟に「誰かと一緒?」「彼は、電話の相手を知っている?」質問を重ねます。曖昧な女の返答。それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だったのです。

モニターには電話の持ち主の名前や自宅住所が現れ、そして通報者の居場所周辺、移動する様子が見て取れます。

通報者はイーベン。アスガーは、すかさず「子供に話しかけるように」「イーベン、答えはYESかNOで」と、柔軟な対応をします。

彼女をさらった男の荒々しい声が聞こえてくる。震える声で子供をあやすふりをするイーベン。

アスガーにとって、これはもう彼の解決すべき事件なのです。そして彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけなのです。

イーベンから得た情報は、白いワゴン車で高速を北へ走っているということ。

誘拐事件の情報を通信司令室へ報告します。車のナンバーは不明。パトカーが近くへ来たらイーベンに合図させると伝えますが、イーベンとの電話は、長くは続かず切れてしまいます。

車はいったい何処へ向かっているのか…。

アスガーは、ほぼ強引に白いワゴン車を追うパトカーと電話を繋ぎます。パトカーのサイレンと共に雨の高速道路の雑音、ワイパー音、パトカーの警官の声。電話の向こう側の音だけの予想もつかない行方にドキドキ感でいっぱいになるのと同時に耳にするデンマーク語の響きの心地良さも感じました。

やがて白いワゴン車を捉えるのですが・・・。

アスガー自らイーベンの自宅へ電話をし、娘のマチルデとの会話が始まります。

幼いマチルデに優しく質問を重ねていくアスガー。

家には他に兄弟がいる。「まだ赤ちゃんなの」とマチルデ。

更に父親の名前と電話番号を聞き出すアスガー。

父親の名はミケル。

「ママとパパは、今は結婚していない」。父親の電話番号からモニターにはその父親の自宅住所や車のナンバーなどの情報が現れます。暴行で逮捕歴もありました。

「パパが来てママに怒鳴ってママが怒ったの」「パパがオリバーの部屋へ行ったの」「そこで大声でわめいてママの髪の毛をつかんだ」「ママが悲鳴をあげてパパがナイフを持って行っちゃった」「ママを助けてあげて」「パパがママを殺したらイヤだ」と泣きながらアスガーに救いを求めるマチルデ。

暗い部屋で涙を流しながら不安と恐怖でいっぱいの幼い少女の姿が浮かびます。

恐ろしい父親が母親に暴力をふるい連れ去ったのだと確信します。

アスガーは、泣きじゃくるマチルデを優しく宥めます。

「誰もママを殺したりしない」「約束する」「僕は警察だ、警察は守るのが仕事だ」「困ってる人を助けるんだ」「ママを見つけ出して連れ戻してあげるから」と、マチルデに伝えます。

「君の家にお巡りさんを行かせる」そしてお巡りさんが行くまでに何かあったら電話してと伝え、112番(緊急通報番号)を何度も復唱し教えます。

「ひとりでいるのが怖い」と訴えるマチルデ。「僕は1人で寂しい時テレビをつけると気が紛れる」と言います。「テレビは壊れてる」と彼女が言います。

壊れたテレビがある貧しい家庭…そんな情景が浮かびます。子供たちの哀れな様子まで想像できます。

アスガーの目の中にもそれが見えたかのよう。。

「弟の部屋に行って一緒にいたら?」アスガーはマチルデに提案します。「パパが入るなって」と困惑した様子なので「お巡りさんが来るまで弟のそばで静かにしてて」と言い聞かせます。少女との長い会話が終わります。

何があったのかと心配をする他のオペレーターの心配を冷たくあしらうアスガー。

彼が得た白いワゴン車の重要な情報を通信司令室のオペレーターへ伝えます。

「ミケルは自宅へ向かっているのではない…」と言うアスガーの言葉を遮った司令室のオペレーターは淡々と言います。「まずナンバーを伝えさせて」と。

「それで?」苛立つアスガー。

「車が見つかるまで待つ」

「しかし…」

「すぐナンバーを伝えた方が早く見つかるわ」

「だけど…」

「情報をありがとう」

「なあ、思うんだが…」

アスガーの言葉を何度も遮りオペレーターはきっぱりと言います。「いいから、あなたは彼女の電話を待って」「お互い務めを果たしましょう」と、一方的に電話は切られてしまいます。

このような電話が切れた少しの間のアスガーの表情は見逃せないほど何かを深刻に物語っています。

そしておもむろにアスガーは、並んでオペレーターをしている警官トーベンに「失礼な態度をとって悪かった」「さっきだけじゃなくてずっと」「ここへ来て依頼俺は…」と、許しを請います。

握手をかわす二人、アスガーの笑顔。

そして許しの後、席を移動しても同じ通報者の電話が取れるかとトーベンに質問し、それが可能であることを教わるのです。

すぐに隣の誰もいない部屋へ移動しようとするアスガーに「あと15分で交代なのに?」と声をかけるトーベンを、彼は再び冷たくあしらうのです。

たった数秒の静かなシーンにも、アスガーという警官の姿が映し出されているようで見入ってしまう。それはまるで本作品の魔法のようでした。

映画『ギルティ』の主人公アスガー

『THE GUILTY/ギルティ』

(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

そして、アスガーは、誰もいない隣のオペレータールームに移動し、独断で事件の詳細を調査し犯人と対峙していきます。

大きなガラス越しの電気もついてない暗い部屋。アスガーはヘッドセットを装着し、再び電話機に向かいます。

電話の向こう側から聞こえる音や声、アスガーの、感情を露わにする表情、電話の相手に仰ぐ彼の指示が複雑に絡みながら物語は進んでいきます。

そして誘拐事件は殺人事件へと発展するという更に深刻な事態に。

様々な人物が電話口に登場し、次第に状況がに現れつつも見えない事件に翻弄されていくアスガーの表情が画面いっぱいに広がります。

イーベンを誘拐した前夫、アスガーのボス、マチルデとマチルデの元へ到着した警官。明日行われるアスガー自身の裁判で重要な証人発言をする相棒のラシード、そしてイーベン、電話の向こう側から聞こえてくる様々な音によって物語が幾重にも重なっていくのを感じます。

イーベンの自宅に到着した警官との電話では、マチルデの様子と共に彼女の家の中まで見えてくる…そして新たな事実。

イーベンを誘拐した前夫ミケルに対する怒りは、アスガーをつき動かします。

イーベンとのもどかしいやりとり、切れてしまう電話、かけ直すアスガー、呼出音、留守番電話のメッセージ、様々な想像が膨らむ材料に息を止めて耳を傾けるアスガーとわたし。緊張感は高まり、多くの情報が行き交います。

ミケルの行先を見つけようとするアスガーは、ボスの注意をよそにやってはいけない捜査を独断で進めていきます。ますますわたしは耳が離せない。

次第に事件の背景やそれぞれの人格をも浮き出されてくるのです。そして事実と真実と嘘が交差します。

やがてアスガーは、自身の問題においても、イーベン誘拐の事件においても、警察官としても人としても、いくつかの過ちを犯している事実に気付くのです。マチルデを弟の部屋へ行かせたのも間違いのひとつでした。

全く想像もしなかった事件の真実を、見当違いの思い込み捜査だとはカンタンに終わらせたくないものがあって、あそこで気付いていれば…でも、いったい何ができただろうと考えてしまいます。

アスガーはイーベンの言葉に絶句しながらも、もう一人の主役とも言える彼女の人間性に共感と同情、親近感を抱くのです。

電話の向こう側と、主人公をはじめ人々の深層心理が重なり合う本作品の緊張と興奮に惹き込まれてしまいます。

アスガーの表情が赤いライトに照らされ包まれたシーンの色合いが、緊迫した状況と彼の思いをより強く演出していて、とても印象に残りました。

全てが終わろうとするとき、自らの罪を告白するアスガーの心情は、どんなものだったのか…。

彼の表情に、やや曖昧で掴みどころのない魅力を感じつつも、人間の深い心の闇に触れ考えさせられるものがありました。

映画『ギルティ』主人公アスガー

『THE GUILTY/ギルティ』

(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

アスガーは、なぜこの事件を手放さなかったのか…。

マチルデに「警察は、皆を守るんだ」「困った人を助けるんだ」と言った警察官としての正義感だけでもない気がしました。

「お前の仕事じゃない。」と言い放ったボスに「ただ自分の務めを果たそうと思って」とも言いますが、本当に務めだと思ったからでしょうか…。

また、「女の子とママを連れ戻すと約束したんだ!」とも訴えますが、それだけでしょうか…。

アスガーには、警察官の正義感らしからぬ言動もあります。

また、イーベンやミケル、相棒のラシードの二面性が映し出されています。

人はタブーを犯してしまう様な相反するものを持っている生き物なのだとあらためて感じました。

最後のシーンで初めてオペレータールーム以外のシーンとなります。重たい足取りで歩くアスガー。廊下の奥のドアの前で携帯電話を手に取り、誰かに電話をかけようとする彼の姿が決して清々しくはなく、息苦しく感じたのはわたしだけでしょうか。。

映画『ギルティ』ラストシーン

『THE GUILTY/ギルティ』

(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

最後に...

この作品は、観る度に新しい発見や気づきがありました。

作品の中にデンマークの様々な地名や島の名称が出てきます。コペンハーゲン、シェラン島…etc.

モニターに映し出される地図も目新しく新鮮です。ユトランド半島の北部と半島と406の島々からなる群島で構成さるデンマークという耳新しい国を知るきっかけになりました。

しかし、何度観ても気になる点があります。

アスガーの右手の薬指に巻かれたテープ…何の演出?演じるヤコブ・センダーグレン自身の怪我?

夜の勤務の要員と交代という時間帯のようですが、夜中のような暗い印象、ラストシーンのドアの外が明るいのは、アスガーは勤務時間を超え、夜が明けるまで電話だけを手がかりに捜査を行っていたのか…?それともデンマークだから?ドアの外の照明?

調べると、北欧の白夜は5月に始まり比較的南に位置するデンマークには白夜はないが、5月は22時頃まで明るいそうです。

作品の季節は…アスガーのニットの上着を見ると寒い時期なのでは?

大雨が降っているから春から初夏?暗い室内の季節感と時間の感覚が曖昧で不思議な印象なのは、ワン・シチュエーション映画ならではなのでしょうか。。

マチルデに対するアスガーの絡みを見ていると、彼にはきっとマチルデと同じ歳くらいの子供がいるのでは?と想像させるけど…本当は?

など、くだらない疑問で余韻にひたるわたしです。

驚いたことは、イーベンと初めてセリフを合わせるのは、そのシーンを撮影する時だったそうです。スゴイ!

いきなり始まるその新鮮さを求めていたから、事前に読み合わせはしなかったというグスタフ・モーラー監督のこだわりが作品を観て伝わります。

観る側のそれぞれの想像で違う作品がうまれそうな映画『ギルティ』是非ご覧ください!

最後まで読んでくださりありがとうございます。

Momoka

概要

映画『ギルティ』公式ホームページ

  • THE GUILTY/ギルティ』(Den skyldige)は、2018年のデンマーク制作のスリラー映画。
  • グスタフ・モーラー監督・脚本、本作で長編映画監督デビュー。
  • 主演;ヤコブ・セーダーグレン
  • 共演;ヨーアキム・フジェル
  • 2018年サンダンス映画祭で観客賞を受賞。
  • 第91回アカデミー賞外国語映画賞にはデンマーク代表作として選出。
  • 全米最大の映画批評サイトRotten Tomatoesでは、初登場100%をたたき出した。
  • 2021年ジェイク・ジレンホール主演によるハリウッドリメイクされる。

(参考:Wikipedia,webDISE)

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